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名古屋高等裁判所 昭和56年(ネ)77号 判決

控訴人

亡赤川圓訴訟承継人 中川はつ

右訴訟代理人

兼平雄二

加藤茂

被控訴人

河西松男

右訴訟代理人

大脇保彦

鷲見弘

大脇雅子

飯田泰啓

長縄薫

名倉卓二

村田武茂

主文

原判決中控訴人に関する部分を取消す。

被控訴人の控訴人に対する訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴却下の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(被控訴人の主張)

一  本件控訴は不適法として却下さるべきである。

1  原審被告亡赤川圓(以下、「亡圓」という。)は昭和五三年一二月一三日死亡したが、原審はいずれも同人の子である赤川佐知子ほか四名が相続放棄したため、相続人は妻の分離前相控訴人赤川弘江(以下、「赤川弘江」という。)及び異父姉の控訴人であるとし、右両名に訴訟を承継させ、両名に宛てて判決した。

2  控訴人及び赤川弘江は右判決に対し控訴したが、本件事件が当審に係属中の昭和五六年一二月二四日、亡圓の養子である前記赤川佐知子を原告、控訴人及び赤川弘江を被告とする名古屋地方裁判所豊橋支部同年(ワ)第九八号相続放棄無効確認請求事件において、赤川佐知子のした相続放棄は無効であるとして同人が亡圓の相続人であること、したがつて、また、次順位の相続人である控訴人は相続人たる地位を有しないことが確認され、右判決は昭和五七年一月一三日確定した。

以上によると、控訴人は、本来、相続人ではなく、亡圓の訴訟承継人たる資格を欠いていたのであるから、控訴人が当事者としてした本件控訴は不適法である。

二  被控訴人の本訴請求は、亡圓の債務不履行を理由とするものである。すなわち亡河西一夫は、昭和五一年八月一七日亡圓との間で、痔核手術及びその治療に関する医療契約を締結した。しかるに同人は、痔核手術後、亡一夫が多量の出血状態に陥つているにも拘わらず、輸血処置をとることなくこれを放置し、医師として行うべき適切な治療処置を怠り、同人をして死亡させ、医療契約の本旨に従つた履行を怠つたものである。

(控訴人の主張)

一 被控訴人の当審主張一につき、控訴人は亡圓の訴訟承継人たる地位を失つたものであるから、控訴人を相手取つた被控訴人の本件訴えは不適法として却下すべきである。

二 被控訴人の当審主張二のうち、亡圓と亡河西一夫との間に、昭和五一年八月一七日、被控訴人主張のような医療契約が成立したこと及び、亡河西一夫が死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(証拠)〈省略〉

理由

原審は、原審被告亡圓の訴訟承継人は控訴人と赤川弘江であるとし、両名に宛てて本件判決を言渡しているので、先ず、控訴人の承継資格の有無について検討する。

本件記録によると、(一)被控訴人は昭和五一年一一月一〇日亡圓を被告として本訴を提起したこと、(二)亡圓は昭和五三年一二月一三日死亡したが、いずれも子である赤川佐知子同赤川義裕は名古屋家庭裁判所豊橋支部に相続放棄の申述をして昭和五四年三月二三日受理され、同市瀬秀子同赤川泰裕同赤川博俊も同様の申述をして同月二六日受理されたため、妻の赤川弘江と異父姉の控訴人とが亡圓の権利義務を相続したこと、(三)亡圓の訴訟代理人弁護士富田博は同年三月二〇日辞任したため、本件訴訟は中断するに至つたこと、(四)赤川弘江は昭和五四年四月一二日、みずから原審に受継申立をし、また、被控訴人は本件訴訟の相手方たる立場で、昭和五五年四月原審に、控訴人も承継人であるとして受継申立をしたこと、(五)その後、原審は、赤川弘江と控訴人とが亡圓の訴訟承継人であるとして訴訟手続を続行し、昭和五六年二月一二日両名を被告として原判決を言渡したこと、(六)右両名は右判決に対し控訴したが、本件事件が当審に係属中の昭和五六年一二月二四日、前記のとおり一旦相続放棄をした赤川佐知子が、控訴人及び赤川弘江を相手取り名古屋地方裁判所豊橋支部に提起した相続放棄無効確認請求事件(同庁同年(ワ)第九八号)において、同裁判所は、赤川佐知子のした相続放棄は無効であるとして同人が亡赤川圓の相続人であること、したがつて、また、次順位の相続人である控訴人は相続人たる地位を有しないことを確認する旨の赤川佐知子勝訴の判決を言渡し、右判決は、昭和五七年一月一三日確定したことが認められる。

以上によると、亡圓の訴訟承継人は結局、妻の赤川弘江と子の赤川佐知子の両名であることが明らかであり、亡圓の相続人ではない控訴人は訴訟承継人ではないものといわねばならず、したがつて控訴人は、本件訴訟より排斥されなければならないのである。しかして、本件においては、真実の訴訟承継人である赤川佐知子に対する原審訴訟が中断中、承継資格を否定さるべき控訴人に対して受継申立がされ、原審はこれを容れて訴訟手続を続行し、控訴人に宛てて本案判決がされているのであるから、真実は、当事者たる地位にない控訴人を本件訴訟より排斥するためには、原判決中控訴人に関する部分を取消し、被控訴人の控訴人に対する訴えを却下するのほかはない。

よつて、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(可知鴻平 佐藤壽一 鷺岡康雄)

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